2月2日(水)
下の子の歯が抜けそうだ。
最初に左下の前歯が抜け、今は右前歯が上下ともに抜けそうになっている。あまりにも抜けそうになり、ぐらぐらを超えて「ぶらぶら」になっている。
特に上の歯がもう本当に左右の二か所でしかつながっていない感じで、ひっぱればすぐに抜けそうだ。
「抜いてあげようか?」
「……(しばらく考えて)うん」
お、おう、抜くのか。いかに抜けそうな乳歯といえど抜歯は医療行為ではないのか。とりあえずよく見ると、二か所のうち片方はすでにちぎれ、右側だけがかろうじて歯茎につながっている。
せーの、ぷち。抜けた。出血はない。ちょっと前にひとしきり出血し終わっていたからな。
歯の内部が虫歯のように黒くなっていたがこれは多分抜けかけたときに中の神経が腐ったやつだろう。
抜歯は初体験であった。子供らはそのまま朝食のバターロールとミートソース入りの卵焼きを食べて学校に行った。
15時すぎ頃に家を出た。医者との面談は17時だったが、早く行ったらもしかしたら父に早く会えるかもしれない、という魂胆である。
武蔵小杉駅から見慣れない風景を歩いていく。タワーマンションと公園、低層の建物が連なり縦横の直線が妙に強調され生活感がない不思議な街だ。
病院についたら病棟まではスムーズに行き、そのあとデイルームで待つことになった。ああ、病室には入れないよな。このまま17時まで待つのかしら。
結果、17時まで待った。昨晩買った差し入れのふりかけを家に忘れてきた。
父に会える。どれだけやつれただろうか。
しかしやってきたのは看護師さんだった。ナースステーションの隣の小さい会議室に通される。
父がいた、たしかにやつれている。しかし思いのほか元気そうであった。2週間前まで車を運転している人間がそこまで急にしぼむことはなかった。抗がん剤の副作用で最悪な状態でも、それでも適切な処置があったようだ。
病状や薬について先生から話を聞く。再来週は有給なので来週中に、みたいな話をしている。医療従事者の有給休暇はなんとしても死守せねばならん、それは我ら市民の定めだ。
話を聞く間、父の背中をなんどもさする。言葉の端々からこの2週間がよほどつらかったように聞こえる。
結局今後どうするかは「実家で弟のPCR検査次第」となった。運よく陰性であれば、週末には退院して1週間ほど家で休養するらしい。
看護師さんに依頼して、記念写真を撮ってもらった。マスク越しだが親子であることがよくわかる。
武蔵小杉のスターバックスで少し残った仕事を片付け、家に帰る。半端な時間だったので家の周りをうろうろして、かつて写真を撮った「聖母被昇天みたいな植え込み」をもう一度撮った。今度はピントもしっかり合った。二度目があるのはすごいことだ。